訪問介護の崩壊を食いとめる施策を求める要望書 提出・老健局長懇談

2025年11月13日に行われた、訪問介護の崩壊を食いとめる施策を求める要望書 提出・老健局長懇談の内容を以下に掲載いたします。

【出席者】

厚生労働省:黒田秀郎(老健局長) 安蒜丈範(老健局認知症施策・地域介護推進課課長補佐) 齋田雄一(老健局認知症施策・地域介護推進課基準第一係長)

紹介議員:早稲田夕季衆議院議員 立憲民主党 衆議院厚生労働委員会理事

ケア社会をつくる会:藤原るか(訪問ヘルパー) 柳本文貴(NPOグレースケア機構代表・訪問介護事業者)西本由美子(訪問ヘルパー) 世話人・小島美里 中澤まゆみ

 

小島美里代表理事 今日はケア社会をつくる会からの要望書提出で参りました。局長がお見えくださったのは、長い要望書提出人生で初めてです。大変嬉しいです。

藤原るか (要望書を手渡し)

黒田秀郎老健局長 はい、頂戴いたします。ありがとうございます。

小島美里(「訪問介護の崩壊を食い止める施策を求める要望書」の説明)ヘルパーのるかさんは有名な方なので、ご存知だと思います。この夏は中で仕事をしているのも大変な状況で、私のヘルパー事業所でも50人からのヘルパーがいますが、無事に帰ってくるかがとても不安な日々でした。利用者さんのお宅で熱中症で倒れたヘルパーも出ていた状況の中で、るかさんからアンケートの提案がありましたので、急いでアンケートを行い、約一か月で851名の有効回答がありました。

黒田秀郎老健局長 かなりの数ですね。

小島 驚くべきことに、この暑さで3割の方が辞めたいという回答がありました。ご存知の通り、ヘルパーは高齢層が多く、そうでなくても人手がないところに3割が辞めていったら、もうアウトです。私どものところでも、もう若くないから施設の方で働きたいという申し出があったり、来年こんなに暑いんだったらやめますという声がありました。東京都は保冷グッズなどに補助金を出したと聞いておりますが、私のところは埼玉県新座市と言いまして、家の前が6メーター道路で向こうは東京都なんですが、全く出ていません。

黒田秀郎老健局長 境目なんですね。

小島 東京都は1人当たり約1万円の保冷グッズの補助金が出ましたが、こっち側の私たちは一円も出ません。昨年、ご存知のように、報酬改定でマイナスになりました。私どもは一番高位の処遇改善を取っていますが、計算してみると1時間あたり2%のマイナスになりました。実質的な赤字になっていますので、十分な保冷グッズを買うほどの余裕がない。ご存知の通りに基本報酬が下がるばっかりで、上がったことがないので、基本報酬でこういうところに対策したいと思っても、それができません。

加えて、ヘルパーの労働時間は直行直帰型、登録型がほとんどです。休み時間を取らせてあげようといっても、休み時間を保証されてない方がほとんどなんです。そういう特殊な労働条件の中で、3割の方が辞めたいと言い、それでも4割の方が続けたいという思いを述べてくださっている。ちょっとお読みいただければ涙が出るような中身なんですが、お分かりいただきたい。

要望としては、保冷グッズも基本報酬が上がってさえいれば多少は考えられるということと、災害に等しいような暑さで、人的災害も実際増えていますので、その対策の補助を創設していただきたいということ。

3番目には、利用者宅の環境というのがまた非常に劣悪で、高齢者は認知症であってもなくても、暑さには鈍感です。啓発活動をお願いしたい。

黒田秀郎老健局長 感じにくいですよね。

小島 体にはこたえていて倒れたりするんですが「暑くないわよ」とおっしゃる。訪問したヘルパーが(冷房を)つけてくださいと言っても「大丈夫、大丈夫、お金がかかるから嫌」というふうなことで、説得しなければならない。エアコンがついていない家さえあります。

さらに、ヘルパーはお手伝いさん扱いで、台所には冷気が来ない。自分の部屋はばっちり冷やしているというふうな、配慮がないのか、気がつかないのか、非常に劣悪な状況もありまして、なかなかそれも言い出せないという中で、ヘルパーは本当に健気に働いてくれています。建設現場では、真夏は作業をやめますと言ってますが、ヘルパーがやめたら、利用者は死んでしまいますからね。

黒田秀郎老健局長 そうですね、おっしゃる通り。

小島 これをどうお考えなのかということを、率直に伺いたいということと、こうしたことを一挙に解決していただきたい。一挙に解決していただかないと、来年、再来年、訪問介護というものがなくなってします。これがただ単に暑いだけの問題ではないということも含めて、今日の提出に至りました。

今回は800人ぐらいでしたので、もうちょっと大規模にやろうということで、準備も進めております。また、同じようなものを出してくることになると思いますけれども、それは全国のヘルパーの声を、もっときちんと聞きたいという私どもの思いです。ということで、提案者のるかさんの方から。

藤原るか 私はヘルパー始めて35年で、年齢が70になりました。だけど、やっぱりこの仕事が好きなので働き続けたいと思っています。でも、この夏の環境はさすがに体に応えました。年齢が高いからというだけではなく、若い人も含めて異常な事態になってることを、愚痴ってるだけではなくデータを取らないとダメということで、急遽1ヶ月ぐらいでアンケートを取りました。私自身、30分の自転車での移動のうち、今までなかったんですが、炎天下のアスファルトで、15分で喉が焼けて進めなくなりました。

黒田秀郎老健局長 照り返しになりますね

藤原るか いつも私たちが持っているボトルはこの大きさです。こういうの(大きいサイズ)を飲んで、保冷剤を首に巻いて、移動支援をやってる人はこれ(板状の保冷剤)をお腹に入れて、自ら体を守ることをずっと続けていました。これもみんな自腹で購入しているものなんですが、気温もこれ以上ひどくなる状態が続くと気象庁も言っておりますので、今日お話を聞いていただく機会ができて本当に嬉しいです。どうぞ、よろしくご検討ください。

黒田秀郎老健局長 わざわざお出かけくださってありがとうございます。私どもは全国一律の制度を扱っているという都合上、なかなかきめ細かい、それからその現場のお声を充分にお聞きできないところが常にあると思います。

早稲田先生には国会でもご指導いただいていて、そういうところでのやり取りも含めて、接点を持たせていただきながら、考えることをたくさんご指導いただいています。それでポイントだけ申し上げると、今、ざっと拝見しただけですが、やはり今年の夏はちょっと異常でした。

もともと災害が近年多いので、その災害対応を介護の分野でもやらなければいけないという話は、改定の議論の中でもあって、その中で施設、事業者の方々の備えを作っていくという議論は、一応の議論ができていたんですね。ところが、今回の暑さというのは、災害にもに匹敵するぐらいサービスのベースにもかなりの影響が出るようなものだということでした。今お聞かせいただいてもそう思います。

それから私どもの中でも、これはちょっと異常だというような頭でおりまして、何かできないのかというふうな思いがありましたが、今日改めて聞かせていただいて、その思いはまた一段強くなりました。

基本報酬の話もありましたが、何らかをお支えする機会、もともと賃金の話、それから物価の話など、非常に厳しい状況の中で、福祉の分野全体がそうなんですが、その中で、まずは応急的な何かという話については、前の国会でも早稲田先生がいろいろ教えてくださったり、政府の方針の中にもそういうことが盛り込まれています

今回、政権が変わって、新総理が聞いてくださっているわけですが、その中で賃金、物価等々に対する、なんらかサポートをという話がこれから出てくるタイミングですので、今日いただいたお話は、私どもの方でも受け止めさせていただいて、どんな形が取れるのかという話は、一旦預からせていただいて、考えてみたいと思います。

あと、先ほどお話しいただいた年配の方々が、暑いけれどそれを感じ取れないというお話は本当にその通りで、私どもも、年配の方々にそういうことが多いという話をお伝えしたいと考えています。かかりつけの先生、ご近所の方。そういういろんな人に伝えていく中で、家の中の環境が改善されていくということかと思います。

何よりも年配の方々の健康を守ることが一番大事なので、そこをみんなでもう一回確認をしていきたい。特にこの異常な暑さであればなおのこと、温度管理が大事だという話はきちんと伝えたいと思います。いろいろな関係者がみんなでワンボイスになって、年配の方々に伝えるということがどうしても必要だと思います。

熱中症の話は私どもの分野だけではなく、すべての労働分野で課題になっていて、労働基準局という私どもの隣にある部署が、働く環境の中で熱中症を位置づけるというのを今ちょうどやっています。今年の6月に、熱中症に関して事業所の中で連絡しようとか、手順をこうしようみたいな、ルール化しようという話が決まりました。

そんな話を追い風にしながら、他のサービス類型は施設や事業所の中でお支えするのが仕事ですが、訪問介護の皆さん、ヘルパーの皆さんは出かけて行くという形態です。ルールが切り替わるタイミングでもありますので、今いただいたお話と重ね合わせて形にして作業をしていきたいと思っています

そのほかの話は、担当がおりますので聞かせていただきますが、ひと月間でたくさんの声を拾っていただいてありがとうございます。ちょっと他人事みたいな言い方に聞こえたら申し訳ありませんが、我々がいろいろなことを考える上で、様子が分かるお話をいただいたと思っています。どうもありがとうございます。

早稲田夕季議員 局長が「何かできないかと思っている」とおっしゃっていただいたのは、これを検討するという方向でよろしいんですか。

黒田秀郎老健局長 これも広い意味では物価高の影響だというふうに思います。我々に提示されているアジェンダが、物価高への対応なんですね。で、今のお話を伺うと、これはサービスを続けていただく上では、コストだというふうに受け止めました。そうしたテーマの中でどんなことができるのかと考えていきたいと思います

小島代表理事 緊急対策は1日も早く進めていただきたいんですが、るかさんは訴訟まで起こしましたが、ヘルパーは他の分野にないような働き方をしています。たとえば休憩時間を取るといったときに、私は事業者ですが、私の指示のもとでやることができないという、非常に不都合なことが起きています。今回、それもあぶり出されたということで、休憩時間を取ることができる職種にしていただくことも、来年とは申しませんけれども、早急に考えていただきたいということも、お伝えしておきたいと思います。

黒田秀郎老健局長 労働基準の話と我々の話と両方ありますので、それぞれのお話になったりすることがありますが、ありがとうございます。

小島代表理事 よろしくお願いいたします。来月また院内集会も予定しておりますので 、お見えになってください。どうもありがとうございます。お忙しいところありがとうございました。

(局長退場)

柳本文貴・NPO法人グレースケア機構代表 基本報酬を上げることで危険手当をつけるという、お金の部分で解決するということも必要ではありますが、今回アンケート出てきたのが、利用者さんのおうちで働く環境として、エアコン問題があるということです。

高齢の方にとって熱中症のリスクが高いとともに、そこがヘルパーの働く場所でもあるので、もうお考えだと思うんですが、高齢の方ご自身の安全確保とともに、ヘルパーに対しての配慮を周知していただけるとありがたい。

あと、その災害対応に関わることですが、今、ケアプランが非常に固定化してしまっています。真夏の暑い中、入浴介助しなければいけないとか、一番暑い時間帯に買い物に行かなきゃいけないとか。

例えば被災地では、ケアプランをもうちょっと柔軟に見直すことが可能になったり、人員配置が緩くなったりするところがあります。同じように真夏の猛暑のような災害規模の状況の中では、入浴はやめて清拭でもよしとするとか、プランの見直しを必要としないといったことを、一言通達で出していただけると、非常に現場が動きやすくなり、ヘルパーにとっても働きやすいバックアップになるのかなと思ってます。

安蒜丈範・課長補佐 ありがとうございます。

小島 あとそちらから、何かご質問等いただけましたら。

 安蒜丈範・課長補佐 そうですね。今回、特に冷却グッズが非常に有効なのかなと思いました。東京都で実際に補助しているという仕組みがありますので、先ほど局長がおっしゃったように、物価高対策というところで、どこまで考えられるかというのはあると思うんですが、東京都の取り組みなども参考にしながら、我々の方も何ができるのかというのを早急に検討していきたいなと思っています。

早稲田夕紀議員 ぜひお願いします。1万円というのは。

小島 東京都が1万円ですね。それ以下のところもありますが。

柳本 10人以下の場合が10万円、人数ごと金額が決まっています。51人以上のところはみんな一律50万円なので、大きな事業所はかなり単価が減ります。

安蒜丈範・課長補佐 基本報酬で賄えない部分を、なんらか調整できればと思います。

小島 ともかく、これだけの思いをしているヘルパーに、国が誠意を見せていただきたいんです。申し上げたくないぐらい恨みつらみがたまってます。ヘルパーは(新型コロナウィルスの)ワクチン優先さえしてもらえなかったという、そういうこともありましたので、ここで「ヘルパーさん大事よ」というのを国が見せなかったら、ヘルパーは本当にいなくなりますよ。もういなくなってますけれど。

柳本 もういなくなったし、(利用者を)断らなきゃいけなくなってきています。介護保険の利用に対して断っていかなきゃいけないほど、人がいないという事態になっているので、5年、10年後にはヘルパー事業所は持たない。

小島 いや、もう5年、10年じゃないよね。

柳本文貴代表 医者や看護師に比べても、ヘルパーの扱いは非常にずさんで、バックアップがないということは、すごく思ってますね。

小島 お医者さんだったら、利用者は冷房つけて待ちますよ。

藤原るか ヘルパーが実際働く場所というのは、入浴介助をするお風呂場だったり、台所の調理だったり、クーラーが届かない場所なんですよ。そういう意味で冷却グッズをいろいろ使っていますが、やっぱり空冷ベストがすごく有効です。室内でも着たまま仕事ができるし体を冷やせる。今は自腹で購入していますが。

安蒜丈範・課長補佐 おっしゃる通り、ヘルパーさん自身が尊重される働き手であるということを、社会全体に広く認識いただくことが非常に重要でありますので、ヘルパーの役割とか魅力とか、そういったものの発信については、我々の方も力を入れてやっていきたいと思います。

小島 まずはお給料が良くならなければ。移動時間にお金が出ないと、皆さんデイサービスを選んじゃうんですよ。

安蒜丈範・課長補佐 はい。

小島 デイも人はいないですけれども、最もいないのが訪問介護です。ヘルパーがいなくなったら、在宅で亡くなるなんてとんでもない。よほどお金のある方で自費サービスをバンバン使える方なら別ですが、私どものところのように普通の庶民が暮らしている町では、ヘルパーは確実に消えていきます。

産業化の話じゃないんです。最低限の安全を守るためにヘルパー大事にしていただくという政策を打っていただきたくて、今回、要望書をお持ちいたしました。暑さだけの問題と捉えていただきたくない。全体的な問題だということで、今日は局長さんにまでお見えいただき、本当に嬉しかったです。

早稲田夕季議員 私たちもずっとこの訪問介護の問題は取り上げてますし、緊急支援法案も出しております。その中で処遇改善は喫緊の課題であります。ただ、基本報酬が引き下げられてからの手当がまだできていないので、高市総理もおっしゃってはいますが、ぜひ今回の補正でそれが本当にきちんと実効性のあるもので、そして皆さんが、今回は自分たちも切り捨てられなかったね、と実感をしていただけるような支援に、是非していただきたいと思います。

利用者宅への移動時間も含まれていない中で、ヘルパーさんたちが危険な状況に置かれているというのは、夏だけではないけれど、特に今回はひどい状況でした。危険な目に遭わないということと、それが本当に国民の皆さんが訪問介護を受けられるための当たり前のコストだという認識のもとに、ご検討をいただきたいと思います。私たちも緊急経済対策をバンと出しておりますので、どうぞよろしくお願いします。

小島 早稲田議員には、国会開会中のお忙しい時に、ご対応いただきましてありがとうございました。(要望書の結果を)楽しみに待っております。ありがとうございました。

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